仙台高等裁判所 昭和25年(ネ)24号・昭25年(ネ)23号 判決
第一審原告(以下単に原告という)訴訟代理人は「原判決中原告勝訴の部分を除きその余を取消す、第一審被告(以下単に被告という)は原告に対し、山形県東置賜郡糠野目村大字糠野目字西窪一六七九番ノ一家屋番号第一一一番木造草葺二階建居宅一号建坪四十二坪外二階五坪のうち原判決の明渡を認容した階下北側六畳、五畳以外の部分を明渡し、且昭和二十四年三月十九日以降右明渡済に至るまで一ケ月金八十円(原判決で認容した部分と合せ金百円)を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする」との判決及び被告の本件控訴につき控訴棄却の判決を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、原告代理人において、
一、本件家屋及びその敷地である宅地は明治四十年頃から山口一衛において、被告先代菅野小助に対し賃料一ケ年四十円の定で賃貸して来たが、大正三年中山口一衛は小助の妻ふくの妹ろくを娶り小助と姻戚関係を生じたのみならず、一衛が船員となつて神戸地方に転住することになつたため、小助との賃貸借関係を解約し、改めて菅野小助夫妻に対して本件家屋及びその敷地の管理を依頼しその便宜のため小助夫妻及びその長男の被告等に居住を許容したものであつて、小助及び被告は賃借権に基き本件家屋に居住したものではない。もしその間に小助及び被告等において税金その他修繕費等を立替支出したとすれば、それは管理に要した費用として山口一衛にその支払を求めるべきであつて、これあるがために原告に対し賃借権を主張し得べきではない。
二、山口ろくは山口一から単に本件家屋の管理を依頼されていたに止まり、山口一の代理人として右家屋につき賃貸借を結ぶ権限をもつていたものではない。従つて山口ろくが一の代理人なりとして昭和二十年十月被告との間にした賃貸借契約(甲第三号証)は山口一の生死如何にかかわらず、本来無効のものである。
三、仮に右賃貸借が有効に成立したとしても、この賃貸借の存続期間は昭和二十一年三月三十一日までの約定であるから、右日時の経過により賃貸借関係は終了した。また右賃貸借には賃料の支払を一回でも怠れば賃貸借契約は当然解除となる旨の特約があるところ、被告は昭和二十一年一月からの賃料を支払わないから、右特約により賃貸借は当然解除されたものである。仮に右特約の趣旨が賃料不払の場合に当然賃貸借が解除されるものでないとしても、賃料不払の際は催告を要せずして直ちに解除し得る趣旨であるから、原告は本訴において(昭和二十五年五月十五日の当審弁論期日で)右賃貸借解除の意思を表示する。以上いずれにしても右賃貸借関係は消滅し、被告において本件家屋を占拠し得べき権原はないのである。甲第三号証の右特約条項が例文に過ぎないとの被告の主張は争う。
四、仮に右賃貸借が存続し原告において本件家屋の所有権取得と同時に賃貸人たる地位を承継したとしても、原告は正当の事由に基いて、被告に対し解約を申入れこれにより右賃貸借の終了したことは原判決事実摘示のとおりであるから、いずれにしても被告において本件家屋の明渡を拒むことはできない。
五、被告が数十年来本件家屋で下駄商を営んで来たことは認めるが、被告の本件家屋買受方の交渉につき原告が斡旋をしたことは否認する。昭和二十年十月の賃貸借契約(甲第三号証)当時被告が山口一の死亡を知らなかつたことは不知、原告の長男斎藤一雄が朝日生命保険相互会社米沢出張所に勤め、同会社の社宅に居住し原告が一雄と同居していることは認めるが、一雄は米沢出張所長ではなく普通の社員に過ぎない。被告主張の修繕費支出の点は否認する。被告が山口みつに対し相殺の意思表示をしたことは知らない。
と述べ、被告代理人において、
一、本件家屋は被告先代菅野小助の代から引続き四十数年間賃借して来たもので単に管理して来たに過ぎないものではない。賃料は定額の取決めはなかつたが家屋及び土地の税金と家屋の修繕費を賃借人が負担する約束であつて、三十数年間これを履行して来たところが昭和二十年になつて所有者山口一の代理人山口ろくの要求によつて賃料を一ケ月二十円、修繕費は家主負担と定め甲第三号証の賃貸借証書を取交はしたが、これは従来の賃貸借の内容を改定したものであつて、新に賃貸借契約を結んだのではない。
二、山口ろくは山口一から本件家屋の管理を委されており、その管理の中には賃貸借をする権限を含むことは原審で原告も認めていたところである。従つて従来の賃貸借契約の内容を改定し得る権限を含むことはいうまでない。されば前示甲第三号証の契約が従来の賃貸借を改定したものとするも、また新な賃貸借をしたものとするも山口ろくにその権限があつた以上、右の契約は有効である。
三、甲第三号証の契約条項第一項に賃貸借の期限昭和二十一年三月三十一日までとあるのは単に形式的に定めた例文に過ぎず、当事者双方ともこれにより賃貸借を終了させる意思ではない。仮に形式的に定めた例文でないにしても期限の到来により賃貸借が当然その効力を喪うものではない。山口みつから解約の申入もなく、解約すべき正当の事由もない。また甲第三号証の契約条項第四項に一ケ月たりとも賃料を滞つた時は催告を要せずして家屋を明渡し直に立退くとあるのも前同様例文であつて双方共これを実行する意思がなかつたのである。仮に然らずとしても僅に一ケ月二十円の賃料が滞つたのを理由として催告を要せず直に営業及び生活の基礎をなす家屋の明渡をさせる旨の約款は苛酷極まるものであつて、公序良俗に反する無効のものである。なお被告は昭和二十年十月七日に同年一月から十二月まで一ケ年分の賃料二百四十円を山口一の代理人山口ろくに支払つたのであるが、昭和二十一年一月以降の賃料債務も次の理由により全部消滅した。即ち前記甲第三号証の契約条項第三項により家主が家屋の修繕義務を負担することと定められたのに、家主たる山口みつは少しも修繕しない。それで被告は雨漏りを防ぐため昭和二十一年から同二十三年に至る三ケ年間、毎年屋根(萱屋根)の修繕をし、その費用として昭和二十一年に金四千八百五十円、同二十二年に金三千二百五十円、同二十三年に金六千五百円合計金一万四千六百円を支払つた。右は家屋維持の必要費であるから、被控訴人は家主山口みつに対してこれが償還請求権を有する。よつて被告は昭和二十三年九月二十九日書留内容証明郵便で山口みつに対し昭和二十一年一月分から同二十三年九月分まで三十三ケ月分の家賃六百六十円と右求償債権の一部とを対当額において相殺する旨の意思表示をした。次で昭和二十六年三月二十四日前同様書留内容証明郵便で山口みつに対し昭和二十三年十月分から昭和二十四年三月分まで(山口みつが控訴人に本件家屋を売却するまで)六ケ月分の家賃金百二十円と右屋根修繕費の求償債権の残額の一部とを対当額において相殺する旨の意思表示をした。次に原告はその主張のように昭和二十四年三月十八日山口みつから本件家屋を敷地とともに買受け、同年三月十九日所有権移転登記を了し(右の事実は被告も争わない)、賃貸人たる地位を承継したのであるが、その後少しも家屋の修繕をしない。そこで被告は雨漏りを防ぐため昭和二十五年十二月中屋根の修繕をして必要費七千百円を支出したから、右金額につき原告に対し償還請求権を有する。よつて被告は本訴において(昭和二十六年三月二十八日の当審弁論期日に)昭和二十四年三月から昭和二十六年三月までの二十五ケ月分の家賃金五百円と右求償債権とを対当額において相殺する旨の意思表示をする。以上により被告は原告の前主山口みつ及び原告に対しても少しも家賃の滞りがない。
四、原告の本件家屋明渡の請求は正当の事由に基くものではない。原告の現住する朝日生命保険相互会社所有の米沢市大町所在の家屋には、原告の長男一雄が同会社米沢出張所長として妻子と共に居住することを認容されているのである。しかも右家屋は相当に広く、原告の長男及びその妻子のほか原告も同居し得る余裕があるのであるから、原告一人だけを特に立退かせる必要はないのである。原告は七十余才の老人で職もなく長男一雄に扶養されているのであつて、かような者が長男の住宅から二里も離れた本件係争家屋に移転することは、生活上からみても経済上からみても不利不便の甚しいもので常識から考えても実行性のないことが明らかである。近年米沢市は人口が増加せず、寧ろ激減の傾向にある一方住宅は毎年新に建設せられつつあるので本訴提起の昭和二十三年当時に比べれば住宅は非常に緩和されている。従つてもし原告が現在の住宅から出ることを希望するならば、長男やその妻子の住んでいる米沢市内に間借りすればよいわけで、一人位の間借り先を見付けることは左程困難ではない情勢にある。
原告は本件家屋買受の際、被告に対し欺瞞行為をしながら少しも反省するところなく、本訴を提起したものであることは、既に被告の主張したとおりである。被告はかかる信義の念に欠けた原告と同一家屋に住むことのできるものでない。同一家屋に住むとすればそれは双方にとり不快な生活であり不幸な結果をもたらすものである。以上の次第であるから本件家屋の全部明渡が不当であることは申すまでもないが、一部明渡を正当とする事由のないことも明白である。
五、原判決に摘示された被告の本案前の抗弁は撤回する。原判決四枚目表七行目に「原告の先々代山口一衛」とあるのは「訴外山口みつの先々代山口一衛」の誤記である。本件家屋の相当賃料が一ケ月百円であるとの原告の主張は争う、一ケ月金二十円の程度である。
と述べたほか、原判決事実摘示と同じであるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
原告が昭和二十四年三月十八日訴外山口みつからその所有に係る請求の趣旨記載の家屋をその敷地である宅地百六十五坪と共に買受け、同月十九日その所有権移転登記を了したこと、右家屋はもと山口一衛の所有であつたが、同人は昭和十八年八月十七日死亡し、長男山口一が、次いで同人も昭和二十年六月三十日死亡し、長女山口みつが、順次家督相続により右家屋及び宅地の所有権を承継したものであること、被告が数十年来本件家屋に居住し下駄商を営みこれを占有していること、以上の事実は当事者間に争がない。
よつてまず被告において右家屋を占拠し得べき権原の有無について判断する。成立に争のない甲第三号証及び乙第一号証原審証人有賀長右エ門、原審及び当審証人後藤四郎吉、山口庸志、山口ろく(但し後記不採用の部分を除く)の各証言、原審及び当審における被告本人尋問の結果を綜合すれば、次の事実が認められる。即ち、本件家屋及びその敷地たる宅地百六十五坪の所有者であつた山口一衛は明治三十九年頃商船学校に入学し郷里を離れることになつたので、その頃右家屋及び宅地を被告の父菅野小助に対し賃料一ケ年四十円で賃貸し同人が右家屋に居住するに至つた。その後一衛が商船学校を卒業して船員となり、小助の妻ふくの妹ろくを妻に娶つて両者の間に姻戚関係が生ずるに至つたが、一衛は家族と共に神戸大阪方面に居住し、本件家屋を必要としなかつたので引続き右家屋を小助に賃貸すると共に賃料額は特に定めず、小助において本件家屋及び宅地に関する公租公課を負担し、本件家屋の修繕費を支弁することとして賃貸借関係を継続し、大正七年小助死亡後はその家督相続人である被告において先代の地位を承継し、引続き右家屋及び敷地に対する公租公課を納め修繕費を負担し、この家屋で下駄商を営んで来た。ところが山口一衛の死亡によつて家督相続をした山口一は昭和十九年応召し、同人不在中の財産管理を託されていた母山口ろく(被告の叔母)は昭和二十年十月七日山口一の代理人として被告との間に右家屋及び宅地の賃料を一ケ月二十円毎月三日払とし家屋の修繕費等は家主の負担とすることを約し、同日被告は昭和二十年一月から一ケ年分の賃料二百四十円を支払つた。以上の事実が認められ、なお右昭和二十年十月七日の約定(以下甲第三号証の契約という)は、前掲甲第三号証の文面だけからみると新に賃貸借契約を結んだものであるかのようにみえないことはないが、しかしこれを上記認定のように本件家屋及び宅地の賃貸借関係が被告の先代以来四十数年間も続いて来た事情と考え合わせると、右は新らしく賃貸借契約を結んだものではなく、従前の賃貸借関係の内容を改定した趣旨と解するのが相当である。前記山口ろくの証言中、以上の認定に反する部分は採用し難く、その他に上来の認定を動かすに足る証拠はない。
原告は、山口ろくには山口一の代理人として甲第三号証の契約を結ぶ権限がなかつたと主張するが、仮に右約定が無効であるとすれば、従前の賃貸借関係がそのまま存続する筋合であるから、いずれにしても被告の賃借権を否定し得ないのみならず、前記証人山口ろくの証言によれば、ろくは右のような約定を結ぶ代理権を与えられていたことを認めるに十分である。また山口一が既に甲第三号証の契約成立前の昭和二十年六月三十日死亡していたことは当事者間に争のないところであるが、前記証人山口ろくの証言及び被告本人尋問の結果によると、一が昭和二十年六月三十日戦死したことは昭和二十二年十二月頃公報によつて始めて判つたもので、右契約当時には関係者はいずれもこれを知らなかつたことが認められ、被告がこれを知らなかつたことに過失のあることを認め得る証拠はない。従つて甲第三号証の契約当時一が既に死亡していたからといつて、この契約が無効であるということはできない。されば被告に係争家屋を占拠し得べき権原がもともと存在しないとする原告の主張は理由がない。
次に本件家屋に対する被告の賃借権は消滅したとの原告の主張について順次考察する。
(1) 前記甲第三号証によると、昭和二十年十月七日に山口一の代理人山口ろくと被告との間の前示契約で賃貸借期間を昭和二十一年三月三十一日までと定めたことが認められる。右契約は従前の賃貸借の内容を改めたものと認め得ることは前に説明したところであつて、右期間の定めも従前期間の定のなかつた賃貸借につき右のように存続期間を定めたものと認められるが、しかしこの約定をした昭和二十年十月七日から昭和二十一年三月三十一日までは僅かに六ケ月にも足りない。従つて右は借家法第三条の二の規定により期間の定がないものとみなされるからして、右約定期間の満了により本件賃貸借が終了したとする原告の主張は理由がない。
(2) 右甲第三号証によると、同号証による契約中に「一ケ月でも賃料の支払を怠つたときは賃貸人からの催告等を要せずして賃貸借物件を明渡し直に立退くこと」なる条項の存することが認められる。しかし本件賃貸借の当事者間には前認定のような特殊な関係があつて四十数年来貸借関係を継続してきたものであること、右甲第三号証の契約後いまだかつて賃貸人山口みつの方で右の条項を援用して賃貸借の消滅を主張した形跡のないこと、その他前記証人後藤四郎吉、山口庸志の各証言を綜合して考えると、右は被告において賃料の支払を一ケ月分でも怠つたときは当然に賃貸借を消滅させるとか、或は催告を要せず直に解除するという意思の下に加えられた条項ではなく、単に賃料支払の確実を期するほか他意ないことが認められ、この認定を妨げるに足る措信し得べき証拠はない。されば右の条項によつて、本件賃貸借が当然解除され、もしくは原告の本訴における解除の意思表示により解除されたとする原告の主張も採用し得ない。
(3) 原告は本件家屋を買受けるとともに賃貸人たる地位を承継したものというべきであるが、原告がその主張のように右買受の当時被告に対し解約の申入をした事実はこれを認め得る証拠がない。また原告が本件賃貸借の解約申入の意思表示を包含すると主張する準備書面(原審で原告の提出した昭和二十四年四月二十四日附準備書面-記録第一一三丁以下)は、原告の前主と被告との間に賃貸借関係その他正権原がないのに本件家屋を被告において占拠していることを理由として、これが明渡を求める旨を記載したものであつて、もともと賃貸借の存在を否定しているのであるからこれに賃貸借解約申入を含んでいるものとは到底認められず、また賃貸借の存在を仮定して解約申入をしようとする趣旨を含んでいないことも右書面自体に徴し明らかである。従つて右準備書面が被告に送達されたにしても本件家屋の賃貸借につき解約申入の意思表示があつたものとは認められない。のみならず仮りに右書面が被告に対する解約申入を含むものとするも、これにつき正当の事由があるものとは認め難い。即ち前記甲第三号証、前掲証人佐藤長右エ門、後藤四郎吉の証言、山口庸志及び山口ろくの各証言の一部及び被告本人尋問の結果を綜合すれば、被告は前認定のようにその先代以来永年本件家屋に居住して下駄商を営み生計を立てているもので、かねてから右家屋及び宅地の買受方を希望し原告にもその交渉を頼み、その斡旋をしてもらつていたのであるが、代金額について折衝中、原告が被告をだしぬいてこれを買受けたものであつて、原告の買つた代金二万五千円程度なら被告も決して買受を拒むものではなく、この程度の代金は前から調達の用意をしていた事情にあつたこと、そこで被告は原告に対して右家屋及び宅地の移譲を求めたけれども、原告はこれに応ぜず、却つて家屋明渡の訴を起すに至つたこと、被告は妻と子供四人の家族で、本件家屋を離れては他に居住する家とてなく、たちまち生活に窮する実情にあること、以上の事実が認められる。証人山口ろく、山口庸志の各証言及び原告本人の供述中右の認定に反する部分は採用しない。一方当審証人高橋米次の証言の一部及び前記原告本人尋問の結果の一部によれば、原告は七十七才に及ぶ老人であつて、その長男一雄が朝日生命保険相互会社米沢支所長として、米沢市内の同会社所有の家屋(社宅)に家族と共に居住しているので、これと同居していることが認められる。原告は右会社から現住家屋の明渡方を要求されているので、これを明渡して本件家屋に居住する必要に迫られていると主張するが、この点に関する甲第八号証の一、二、同第十六、十七号証の各一、二は右認定の事情からみて果して前記会社が原告及びその長男の居住している社宅の明渡の必要があつて発せられたものとはたやすく認め難く、前記証人高橋米次及び原告本人の右の点に関する供述も容易に信用し得ない。以上のような次第で、本件賃貸借の解約申入については正当の事由ありとは認め難いからして、いずれにしても解約申入によつて法定期間の経過と共に本件賃貸借が終了したとする原告の主張も採用し得ない。
然らば被告の本件家屋の占有は正権原に基くものであるからして、それが不法占有であることを前提とする本件家屋明渡及び損害金の請求は失当というべきである。
次に原告の本訴請求中には原告が本件家屋を取得してから、これについての賃貸借が解除又は解約によつて終了したと原告の主張する時期までの賃料の請求を含むので、この点につき按ずるに、本件家屋の修繕費は賃貸人の負担と改定されたことは前認定のとおりであるが、原審証人有留和吉の証言、前記被告本人尋問の結果、これらにより成立を認め得る乙第二号証及び第六号証、成立に争のない乙第三号証及び第五号証を綜合すれば、家主の方で本件家屋の修繕をしないために被告は昭和二十一年からも年々相当多額の費用を出して草屋根の修繕をしたのであるが、原告所有になつてからの昭和二十五年中も屋根の修復破損箇所の葺替等のため合計金七千百円の修繕費を支出したことが認められる。されば被告訴訟代理人が昭和二十六年三月二十八日の本件口頭弁論期日においてした相殺の意思表示により、少くとも原告が本件家屋を買受けてから、原告が解除又は解約により賃貸借が消滅したと主張する時期までの被告の賃料債務は消滅したものというべきである。従つて賃料の請求も理由がない。
原告の本件控訴は理由がないが、原判決中原告の請求を認容した部分は失当であつて被告の控訴は理由がある。よつて民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第九六条、第八九条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 猪狩真泰)